赤と黒 -3ページ目

『贅肉』

 『贅肉』(小池真理子)

 

―あらすじ―
 失恋をきっかけに、異常なほどの食欲を持ち始めた姉。母が病気で亡くなり、父と継母も事故で他界してしまった今、主人公は1人で姉を支えていくことになるのだが…表題作ほか、全5篇からなる短編集。

 

 

 些細な出来事がきっかけで、歯車が少しずつずれていく…といった内容の短編が多く収録されています。また、人の心の歪みや出来心など負の面が書かれており、どこにでもありそうなリアリティが感じられる作品でした。著者の作品は今までにも数冊読んだことがありますが、やはり読みやすく、内容も面白いものが多い印象ですね。

『深泥丘奇談』

 深泥丘奇談(綾辻行人)

―あらすじ―
 京都市の北部で暮らす主人公。検査のために近所の病院へと訪れた彼だが、彼はそこで不思議な何かと出会う。そして、その後も彼は様々な怪異と出会うことになっていく。

 

 京都を舞台に、主人公が様々な怪異と出会っていく物語です。タイトルに「奇談」とあるように、幻想めいた話として、怪異の正体は分からないままに、曖昧模糊としたままに終わっていきます。これを本書独特の味と見るのか、中途半端と見るのかで評価は変わってくるでしょう。

『よもつひらさか』

 『よもつひらさか』(今邑彩)

―あらすじ―
 とある町へ向かう主人公は、坂の途中で1人の青年と会う。その坂は"よもつひらさか"と言い、この世からあの世へと続く"黄泉比良坂"と関係があるという。青年は、坂にまつわる不思議な話を話し出す…全12篇からなる短編集。

 

 「ささやく鏡」や「茉莉花」など、途中でオチが読めてしまう話が多く、半分くらいはあまり驚きがないままに読んでしまいました。「おすすめのホラー小説」でネットを検索した際によく取り上げられていたので、期待しすぎてしまったところがあるかもしれません。

『氷点』(再読)

 『氷点』(三浦綾子)

―あらすじ―
 旭川市で医師として働く辻口。妻、息子、娘の4人家族として暮らす辻口だったが、ある日、妻の不注意から3歳の娘は佐石という男に殺されてしまう。妻の希望により女の子を養子として向かえた辻口だったが、その女の子は佐石の娘だった…



 2007年に読んで以来、約16年振りの再読となりました。

 「原罪とは何か」がテーマとなっている作品です。しかしそのテーマを別としても、謀略や、怒り、妬み、愛情など家族それぞれの思惑が交差した、ホラーミステリー作品としても読むことが出来ます。そのストーリーにグイグイと引き込まれ、今回の再読でも上下巻ともに一気に読んでしまいました。また、下巻ではテーマが徐々に顕わになり、原罪のみならず、信頼とは何か、愛とは何かといった事も考えさせられます。

『さよなら神様』

 『さよなら神様』(麻耶雄嵩)

―あらすじ―
 自らを神だと称する転校生の鈴木太郎。主人公の桑町に対し、彼は次々と事件の犯人を言い当てていく。果たして彼は本当に神様なのか。6つの連続短編からなる、神様シリーズ第2作。

 

 1作目のもやもや感を引き下げて、2作目がやってきました。鈴木の言う人物が本当に犯人なのか、主人公たちは半信半疑ながらも事件の真相を解き明かそうとします(登場人物が小5とは思えない大人びた語彙力ですが)。犯人が分かっているからこその逆算が面白い作品であり、第3話からは物語の終焉に向けて、予想外の展開が続いていきます。最終的にやはりハッピーエンドで終わっていないようなニュアンスで終幕します。これにてシリーズ完結のようですが、出来れば新作を読んでみたい、今後も続いてほしいシリーズですね。

『貴族探偵』

 『貴族探偵』(麻耶雄嵩)

―あらすじ―
 信州の山荘で、密室から死体が発見された。警察による捜査が始まるが、そこには謎の紳士が登場する。自らを「貴族探偵」と称するこの男の捜査方法とは。

 

 本作品のポイントは「執事に捜査を丸投げし、全く働かずに推理を行う探偵」という設定にあるのですが、個人的にはこの設定は必要なのかなと…この設定にメリット(面白さ)が感じられず…例えば、財力で事件を解決する『富豪刑事』(筒井康隆)は富豪という設定が上手く使われているのですが、本作は別に貴族でなくてもいいのではないかと感じてしまいます。事件のトリックは悪くないと思うのですが、今一つ没頭できないままでした。

『OUT』(上下巻)

 『OUT』(桐野夏生)

―あらすじ―
 雅子、ヨシエ、邦子、弥生。それぞれ家庭に問題を抱えながら、深夜の工場でパートとして働いていた。そんな中、弥生は夫が貯金を賭博で使い果たしたことに激高し殺害してしまう。弥生は雅子に相談し、結果として4人は協力してバラバラ死体を隠蔽しようとするが…

 

 とにかくページを捲りたくなるこの面白さ。上下巻で約700ページもの厚さとは思えません。3日で読み切ってしまいました。設定や会話の生々しさが、より臨場感を煽ってくれます。以前から気になっていた作品ではありますが、これは良かった。新たな鉱脈の発見と思われます。

『エディプスの恋人』

 『エディプスの恋人』(筒井康隆)

―あらすじ―
 火田七瀬は、人の心を読むことが出来る精神感応能力者(テレパス)の女性である。その能力は秘密にしつつ、現在は学校で働いていた。そんなある日、とある生徒に向かって飛んできたボールが空中で破裂する事件が起こる。彼の正体と、その背後にあるものとは。

 

 シリーズ作品とは思えないくらい、前作から一変した作品です。SFであり哲学的な、著者らしい作品と言えば作品ですが、個人的にはシリーズ第1作の『家族八景』が一番楽しめました。単体作品としての面白さは水準以上ですが、シリーズとしては方向性がバラバラすぎて何とも。

『華栄の丘』

 『華栄の丘』(宮城谷昌光)

―あらすじ―
 春秋戦国時代の中国。小国・宋の宰相に、華元がいた。名君・文公を助け、ついには大国・晋と楚の和睦を実現させた男。

 

 去年買った本ではありますが、手が伸びずに放置しておりました。今年になって読み始めましたが、あまり面白さが感じられずに、読み終えるまで伸ばし伸ばしになってしまいました。『晏子』や『呉越春秋 湖底の城』といった作品は非常に面白く読めたのですが、本書や『子産』などはあまり面白さを感じられず…この差は何なのでしょうか。

 宮城谷作品も数多くの作品を読んできました。中国歴史小説に限れば、半数を超えたのではないでしょうか。2030年までには中国歴史小説は読み終えられるかもしれません。

『陰陽師 螢火ノ巻』(再読)

 『陰陽師 螢火ノ巻』(夢枕獏)

―あらすじ―
 シリーズ第14弾。平安の京に巣食う妖怪変化の類に、安倍晴明と源博雅が立ち向かう。

 


 蘆屋道満が活躍する話が多い1冊でした。個人的には、最初の話の入り方が新鮮でしたね。そしてもう14巻になり、もはや様式美でありながらも安定した面白さ。「筏往生」に観る人間の浅ましさ、「屏風道士」に観る儚き諦観。長く読んでいきたいシリーズ。