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『銀嶺の人』

 『銀嶺の人』(新田次郎)

―あらすじ―
 八ヶ岳で避難し、山小屋で出会った2人の女性登山家。淑子と美佐子は、全く異なる性格をしていながらも、互いを信頼して山に登ることとなる。女性では世界で初めてマッターホルン北壁完登を成しとげた、2人の実在人物をモデルに描く山岳小説。



 また凄い本を読んでしまったな、というのが率直な感想です。性格の異なる2人の女性をそれぞれ主人公として、山に登る姿を描いていきます。気の強い女医・淑子と無口で涙もろい鎌倉彫職人・美佐子。2人の対比や視点の違いもあってか、同著者の『孤高の人』とはまた違った面白さが光ります。

『それは経費で落とそう』

 『それは経費で落とそう』(吉村達也)

―あらすじ―
 気苦労の絶えないサラリーマン。年上の部下と年下の上司、単身赴任先での浮気など、サラリーマンを主人公としたブラックユーモア短編5作品。



 可もなく不可もなく。最後の1文で余韻を残してくる作品もありますが、全体的にはまあまあ。

『火車』

 『火車』(宮部みゆき)

―あらすじ―
 休職中の刑事、本間俊介は遠縁の男性に頼まれて彼の婚約者、関根彰子の行方を捜すことになった。自ら失踪した彼女は、頑なにクレジットカードを作ろうとしなかったという。本間は謎を解くために、クレジットカード業界の闇へと足を延ばすこととなる。



 600ページ近い作品ながら、グイグイと読者を引っ張っていってくれます。25年以上昔の作品ではありますが、あまり古臭さを感じさせません。自己破産やローン地獄の話などは、現代版にリメイクしてもまた違った面白さが出てきそうです。展開も二転三転し、最後まで飽きずに読み終えることが出来ました。

『続氷点』(再読)

 『続氷点』(三浦綾子)

―あらすじ―
 旭川市で医師として働く辻口。妻、息子、娘の4人家族として暮らす辻口だったが、ある日、妻の不注意から3歳の娘は佐石という男に殺されてしまう。妻の希望により女の子を養子として向かえた辻口だったが、その女の子は佐石の娘だった…



 『氷点』と同様に、2007年に読んで以来、約16年振りの再読となりました。

 「原罪とは何か」がテーマとなっていた『氷点』の続編であり、今作では「罪の許し」がテーマとなっています。しかし前作同様、このテーマを別としても、出生の秘密を巡るヒューマンドラマとしても読むことが出来る作品です。個人的には罪の許しという部分よりも、「一生を終えてのちに残るのは、われわれが集めたものではなくて、われわれが与えたものだ」、「生まれて来て悪かった人間なら、生まれて来てよかったとみんなに言われる人間になりたい」などといった言葉が心に残りました。やや偶然が過ぎるのが気になりましたが、多くの人に読んでいただきたい本です。

『天使の囀り』

 『天使の囀り』(貴志祐介)

―あらすじ―
 精神科医である北島早苗のもとに、ブラジルから恋人の高梨が帰ってきた。高梨は新聞社主催のアマゾン調査隊に参加していたが、帰国後の彼は人格が変わったかのような様子を見せ、ついには自殺してしまう。「死」を極端に恐れていたはずの彼がなぜ死を選んだのか。高梨が残した「天使の囀りが聞こえる」とは何か。



 ホラー小説の傑作と言ってもいいでしょう。ホラー小説は因果や動機が曖昧であったり、オチが弱い作品が多い印象ですが、本作は最初から最後まで飽きることなく読み終えてしまいました。SFながらも、妙なリアリティを感じさせてくれる作品です。電車で読んでいて、作品にのめり込んでいて危うく乗り過ごしてしまうところでした。

『九月が永遠に続けば』

 『九月が永遠に続けば』(沼田まほかる)

―あらすじ―
 高校生の一人息子が失踪し、さらには愛人が事故死してしまう。佐知子は息子の行方を捜そうとするが、そこには別れた夫・雄一郎の後妻に関する恐ろしい過去が関係していた。



 序盤~中盤にかけて、「果たしてどうなってしまうのか」という期待感でどんどん読み進めてしまいました。終盤の展開は、私が期待しすぎてしまったのか、どうも今一つ。結局何がどうなったのか、よく分からないままに終わってしまった感がありますね。

『貧乏同心御用帳』

 『貧乏同心御用帳』(柴田錬三郎)

―あらすじ―
 江戸町奉行所の町方同心・大和川喜八郎。独身ではあるものの、彼は孤児を9人も引き取って同居していた。そんな彼の元に、奇妙な事件が舞い込んでくる。謎を追ううちに、秘められた真実が明らかとなる。連作短編4本を収録。



 久しぶりに著者の時代小説を読みました。再読を除けは2015年に読んだ『眠狂四郎独歩行』以来となりますので、約8年の隔たりがあります(現代劇は2019年に読んでいますが)。シバレンと言えば斬り合いのシーンはもちろん、そのストーリー構成が面白く、ついついページを捲ってしまいます。本作でもその面白さは変わらず、人妻が次々と失踪する事件や武田の埋蔵金に関する事件など、実にケレン味のきいた短編ばかりでした。欲を言えば、せっかくの子供たちがあまり活躍しないのが勿体ないところではあります。

『厭な小説』

 『厭な小説』(京極夏彦)
 
―あらすじ―
 子供、老人、扉、先祖、彼女、家、小説。それぞれに厭なものが存在し、主人公たちを追い詰めていく。厭な話7篇を収録した連作短編集。

 

 
 タイトルの通り、確かに厭な話ばかりが収録されています。個々の話はオチが分からず、事実なのか妄想なのか不明な話もありますが、最後には最終話である「厭な小説」に収束されていきます。連作だということに気付かず中盤まではよく分からないままに読み進めてしまいましたが、最終話まで読み終えて完結といったところでしょうか。いい意味で、気持ち悪さを体現している作品です。

『吉田松陰』

 『吉田松陰』(奈良本辰也)
 
―あらすじ―
 幕末の日本。萩にて私塾を開き、これからの日本のあり方について思想を広めた吉田松陰。数多くの門弟を抱えながらも、その最後は罪人として果てる。彼の掲げた思想とは何か。



 幕末の背景も含めて、吉田松陰の生涯を追う1冊です。岩波新書らしく読みやすくコンパクトにまとまっており、吉田松陰について手ごろに読み直しやすい作品とも言えます。半面、吉田松陰について不勉強な場合は、やや読みにくいかもしれません。

『許されようとは思いません』

 『許されようとは思いません』(芦沢央)

 

―あらすじ―
 入社3年目にして、営業成績を急上昇させた主人公。が、それは誤発注による間違った売り上げであった。何とかバレずに済む方法を考える主人公だったが、嘘を隠すための嘘が、異常な事態を呼び込んでいく。「目撃者はいなかった」ほか、全5篇。

 

 

 先日読んだ『贅肉』(小池真理子)のような、ふとしたことで歯車が狂っていく作品が多く収録されています。個人的には「姉のように」はなかなかの面白さでした。「目撃者はいなかった」も面白いですが、偶然が重なりすぎていてフィクション感が強い(没入感に欠ける)ですね。他もそれなりに読み応えがありますが、特筆すべきほどかというと…といったところです。