赤と黒 -6ページ目

『あなたから逃れられない』

 『あなたから逃れられない』(小池真理子)

 

―あらすじ―
 夫が海外出張に行っている隙に、別荘で若い愛人・恭一との逢瀬を楽しんでいた比奈子。が、その別荘に、恭一の恋人をなのる女性がやってきた。そして彼女は急に青酸カリを服毒し死んでしまう。何とか死体を処理しようとする2人だったが、比奈子の前に脅迫者が現れる。

 

 

 不意に起こった女性の死を皮切りに、次々と主人公に不幸が訪れます。読者としても女性の死は不意なものであるため、主人公と同じ気持ちになりながら先へ先へと進んでいくことになりました。ヒヤリとさせるラストも含めて、なかなか良い読後感を味わうことのできる作品でした。

 

 

『氷壁』

 『氷壁』(井上靖)

 

―あらすじ―
 親友・小坂とともに雪山登山を行っていた魚津。難所に挑んだ小坂は、切れる筈のないナイロン・ザイル(命綱)が切れて墜死する。何故ザイルは切れたのか。やり切れぬ思いを胸に、魚津は真相を求めていく。

 


 『八甲田山死の彷徨』(新田次郎)や『神々の山嶺』(夢枕獏)、『凍』(沢木耕太郎)など、今までに何作品か山岳小説を読んできましたが、それらの中には、私の読書暦の中で圧倒的な存在感を放っている作品が多くあります。
 そして今回読んだこの『氷壁』もまた、前述の作品群に勝るとも劣らない名作でした。500ページ超の作品ではありますが、約3日で読み切ってしまいました。真実を解明しようと、不器用ながらもじりじりと前進していく主人公の姿は、『不毛地帯』(山崎豊子)の主人公・壱岐を思い出させてくれました。本書の著者・井上靖先生と山崎豊子先生は新聞社での上司部下の関係にあったとされますが、作風の根幹はどこかしら似ているのかもしれません。

 

 

『変身』(再読)

 『変身』(カフカ/訳:高橋義孝)

 

―あらすじ―
 布地の販売員をしている青年グレーゴル・ザムザは、ある朝自室のベッドで目覚めると、自分が巨大な毒虫になってしまっていることに気が付く――

 

 

 虫となってしまったザムザの絶望感。次第に家族からも疎まれ、じわりじわりと孤独感に苛まれる。最終的に、家族はザムザのことは過去の出来事として、新たなる希望へと向かっていく。何と残酷なことか。

 

 

『恐怖配達人』

 『恐怖配達人』(小池真理子)

 

―あらすじ―
 社長令嬢と結婚することになった主人公。が、独身最後の女遊びが運命を狂わせていく…(「梁のある部屋」)。計6編を収録した短編集。

 

 

 本作収録の「老後の楽しみ」は概要だけ知っていたのですが、改めて読んでみるとあまりに気持ち悪くて飛ばし読みのように読み終えてしまいました。また、「梁のある部屋」は楽しめましたが、全体的には、本書と同じくブラックユーモア短編集の『あなたに捧げる犯罪』の方が好みでした。この辺りは個人の趣味の範疇ですが。

 

 

『ペーパーナイフ』

 『ペーパーナイフ』(沢木耕太郎)

 

―あらすじ―
 著者が今までに読んできた作品の数々を紹介。

 

 

 『地図を燃やす』と同じシリーズですが、こちらはいつものようなエッセイ作品ではなく、書評が中心となっています。ただ、個人的にはあまりピンとくる内容ではなく…と書くと本書が面白くない作品のように書いていますが、そうではありません。これは私自身の読書レベルが低いだけのように思われます。もう少し深く読めるようにならないといけません。

 

 

『墓地を見下ろす家』

 『墓地を見下ろす家』(小池真理子)

 

―あらすじ―
 新築で立地がいいにも関わらず、家賃が非常に安いマンションがあった。その理由は、前面に墓地が広がるということ。主人公一家は墓地を気にしつつも、家賃の低さに惹かれてこのマンションに住むことにした。が、それは恐怖の始まりであった…

 

 

 ほんの少しの違和感が、じわりじわりと恐怖へと変貌していく…という流れが非常に上手く、ついついページを捲ってしまいます。また、個々のエピソードが数ページ単位で書かれており、やはり次へ次へとページを捲ってしまいたくなるような構成でした。エレベーターが止まるシーンなどはベタと思いつつも面白く読ませてくれます。ラストの展開(恐怖の正体)には賛否が分かれると思いますが、個人的には、「なぜ主人公一家だけが犠牲になったのか」という理由がなかったことがマイナスポイントでした(主人公たちの黒い過去に関する描写もありましたが、ストーリーとは結局絡まず)。

 

 

『崩れる 結婚にまつわる八つの風景』

 『崩れる 結婚にまつわる八つの風景』(貫井徳郎)

 

―あらすじ―
 結婚をテーマに、それぞれの男女が抱える闇が表に出てくる短編集。表題作の他、全8編を収録。

 

 

 表題作の「崩れる」をはじめ、どの作品もクオリティが高く、楽しんで読むことが出来ました。少しずつ歯車が噛み合わなくなるような、妙なリアルさが感じられるのも特徴でしょうか。個人的に好きなのは「腐れる」で、ラストを曖昧にぼかすことで陰鬱な余韻を残してくれています。

 

 

『あなたに捧げる犯罪』

 『あなたに捧げる犯罪』(小池真理子)

 

―あらすじ―
 傲慢で我儘な父に対し、後妻の愛子さんは全く文句を言わない。のぶ代おばさんと私は、そんな彼女とともに仲良く毎日を過ごしていた(「菩薩のような女」)。家庭的で控えめな妻・志津子を、夫はとても愛していた。が、彼女の高校時代の女友達が現れてから、日常が変化していった(「妻の女友達」)。

 

 

 いずれも悪女が出てくる、ブラックユーモアたっぷりの短編集です。ここ最近、数多くのイヤミスやブラックユーモア小説を読んでいますが、中でも本書は面白くて数時間で一気に読み切ってしまいました。あらすじにも書いた「菩薩のような女」、「妻の女友達」はもちろん、どこかズレた展開が面白い「転落」など、どの短編も読み応えがありました。発行が1995年のせいか、どこかバブルの余韻を残している感じがあります。

 

 

『クリムゾンの迷宮』

 『クリムゾンの迷宮』(貴志祐介)

 

―あらすじ―
 藤木芳彦は、一面が深紅色の異様な光景のなかで目覚めた。彼の横に置かれた携帯用ゲーム機には、この場所は火星だとのメッセージが映し出されていた。脱出を試みようとする藤木だったが、彼と同様にこの場所に集められた8人の男女と出会う。

 


 いわゆるデスゲームモノです。やや長い作品ではありますが、最後まで一定の緊張感とスピード感が保たれており、サクサク読むことが出来ました。ラストがやや尻すぼみ…といった印象は拭えませんが、デスゲームモノはラストがすっきりしないことが多いので、致し方なしか、といったところです。『ミッキーマウスの憂鬱』(松岡圭祐)のような、お手軽に最後まで楽しめる小説だと思いました。

 

 

『ぼくたちの桃太郎作戦』

 『ぼくたちの桃太郎作戦』(宗田理) 

 

―あらすじ―
 前科2犯の父と結婚詐欺師の母を両親に持つ、13歳の石川五郎。五郎を一流の泥棒にするとの教育方針から、彼ら家族は3人で泥棒の旅に出た。東京から東海道を通って京都に着いた一家だが、新たな依頼を受けて大阪まで行くことになった。

 

 

 前作『ぼくの泥棒日記』に続く、シリーズ第2弾です(前作はこのblogには登場していませんが)。著者と言えば「ぼくらシリーズ」が有名ですが、それとはまた違った味わいを持つ作品です。ピカレスクロマンというほどではありませんが、基本的には悪人から泥棒を行うので、痛快かつどこかほのぼのとした作品に仕上がっています。