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『桐島、部活やめるってよ』

 『桐島、部活やめるってよ』(朝井リョウ)

 

―あらすじ―
 バレー部のキャプテン・桐島が、理由も告げずに突然部活をやめた。彼が部活を止めたことにより、周りの生徒たちにもいくつかの変化が訪れる。

 


 気になるタイトルではあるものの、読まないままに年月が経ってしまいました。今回改めて読んでみましたが、予想以上に爽やかで読みやすい作品でした。補欠バレー部員や吹奏楽の生徒など、高校生の青春劇が詰まった1冊です。雰囲気を楽しむ作品ですね。

 

 

『地図を燃やす』

 『地図を燃やす』(沢木耕太郎)

 

―あらすじ―
 「30までは何でもできると思っている。ところが30すぎると自分に可能なことが地図のようにはっきり見えてくる」(小沢征爾)――30代になった著者は、自分自身の地図について考えるようになった。

 

 

 約30年以上昔の作品とは思えないほど、普遍的な面白さをもっています。地図というキーワードとともに、ルポライター
の道を選んだきっかけや、印象深い記事の思い出などが余すところなく書かれています。なぜ著者の作品はいつまでも読んでいられるのだろうか。

 

 

 

 

『ぼっけえ、きょうてえ』(再々読)

 『ぼっけえ、きょうてえ』(岩井志麻子)

―あらすじ―
 岡山のある遊郭で、醜い女郎が客に話し始めた身の上話。生まれたときから間引きの手伝いをしていたという彼女。そして、彼女にはさらに恐るべき秘密が隠されていた…岡山地方の方言で「とても、怖い」という意の表題作の他、3篇を収録。



 先日、大阪で行われていた「あやしい絵展」に行ってきました。というのも、本書の表紙絵が出品されていたためです。前々から、本書の表紙が個人的に非常に怖いと感じていたのですが、ついに現物を拝観しました。

 

 これを機に、約10年振りの再々読となりました。読み手を引き込むストーリー、退廃的で陰鬱な雰囲気、そして最後に明かされる恐怖の真実など、珠玉の作品ばかりです。共通するのは人間の恐ろしさですが、中でも「密告函」は特に人間の醜さについて描かれていました。コレラが流行している田舎を舞台に、色欲と嫉妬が渦巻いています。また、「依って件の如し」で明らかとなる件(くだん)の正体は見事の一言でした。

 

 

『こんなに変わった歴史教科書』

 『こんなに変わった歴史教科書』(山本博人ほか) 

 

―あらすじ―
 鎌倉幕府が成立したのは何年か。その肖像画は本当に本人なのか。1972年の教科書と2006年の教科書を比較し、歴史教科書の変化とその背景に迫る。

 

 

 歴史教科書の変化をお手軽にサクっと知れる良書です。あらすじに書いた以外の内容としても、大和朝廷と大和政権の違い、士農工商や慶安の御触書の存在、人物の評価の変遷など、新旧の違いを楽しんで知ることが出来ました。新資料の発見や時代の変遷など、今も歴史が生きていることを実感させてくれます。

 

 

『雀蜂』

 『雀蜂』(貴志祐介)

 

―あらすじ―

 雪で閉ざされた冬の山荘で目覚めた主人公。山荘には何故かスズメバチが侵入しており、彼はアナフィラキシーショックによって刺されると命に関わる可能性があった。

 

 

 物語の序盤から中盤はスズメバチとの戦いにページが割かれており、ホラーというよりはパニックものという印象が強い作品です。終盤ではどんでん返しがあり、スズメバチが侵入した謎や妻が姿を消した理由などが明かされます。終盤の展開は読者によって賛否が分かれていますが、個人的にはアリかと思っています。が、似たようなトリックを使った作品と違い、ネタバレを知った上で再読したいとはあまり思わず…可も不可もない作品といったところでしょうか。

 

 

『功名が辻』(全4巻) 

 『功名が辻』(司馬遼太郎)(全4巻) 

 

―あらすじ―
 戦国時代の日本。織田信長の家臣に、ぼろぼろ伊右衛門とよばれる一人の武士がいた。取り立てて手柄があるわけでもなく、風采の上がらない男であったが、何と彼に賢くて美しい嫁がくるという。妻の支えにより彼は、ついに土佐一国の大名の地位を得るのであった。

 

 

 『風雲児たち』、『風雲児たち外伝』でも少し取り上げられた、山内一豊の物語です。私も何となく知ってはいましたが、今回改めて、しっかりと読んでみることにしました。

 実直で律義者な一豊と、彼を裏で支える妻・千代のやり取りが非常に巧妙で、全4巻、全く飽きることなく読み終えることが出来ました。一心不乱に戦国の世を戦う夫と、その夫を上手く盛り立てていく妻。立身出世と言えば豊臣秀吉ですが、彼らの物語も負けずとも劣らない面白さです。最後の土佐統一は少し暗い終わり方でしたが、これはフィクションらしいので、実際には和やかに統一が行われたのでしょうか。

 

 

みなもと太郎先生へ

 8/7(土)、漫画家のみなもと太郎先生がお亡くなりになられました。みなもと太郎先生を知ったのは、約12年前。友人から『風雲児たち』の漫画を貸してもらったのがきっかけとなり、その世界観に没入していきました。その後『ワイド版風雲児たち』、『風雲児たち 幕末編』と購入し、自分ではそれなりに知っているはずの江戸時代が、全く異なった世界観で描かれており、歴史に対する見方を再確認することとなりました。昨年から『幕末編』が休載となっていましたが、いつか再開されるものと思っておりました。


 私は毎年夏に旅行に行くのですが、その目的の1つは『風雲児たち』に出てくる人物の跡地を訪ねることでした。江川太郎左衛門の生家と反射炉、大黒屋光太夫記念館、高野長英と二宮敬作の過ごした卯之町。いずれも素晴らしい旅の思い出に満ちています。中でも、仙台市博物館で「三国通覧図説」の原本を見たことは、強く印象に残っています。


 『風雲児たち』に出てくる人物に関する歴史小説やノンフィクションも、数多く読みました。杉田玄白が著した『蘭学事始』や、大黒屋光太夫による紀行文『北槎聞略』も読みました。改めて考えると、私の読書歴にもかなりの影響を与えていることを実感します。


 みなもと先生、ありがとうございました。

 

 

 

 

『第2図書係補佐』

 『第2図書係補佐』(又吉直樹)

 

―あらすじ―
 読書が大好きな著者が、自分の過去を振り返りながら、読んだ本との接点を書き綴っていくエッセイ。

 


 よくある読書案内と思って買いましたが、内容としてはエッセイが9割を占めており、読書案内は1割程度となっています。ただ、著者のエッセイ(過去の思い出)が面白く、笑えるものや何とも言えないもの、切ないものなど、「読ませて」くれます。

 

 

『おとうさんがいっぱい』

 『おとうさんがいっぱい』(三田村信行)

―あらすじ―
 トシオの家にかかってきた電話。「友人と飲むから帰りが遅くなる」との父からの電話であったが、すでに父は帰宅している。さらにその後、父(2人目)が帰宅し、次の日にはまた父(3人目)が帰ってきた。どうやら全国的に家族が増える事件が発生しているようだ…



 あらすじに書いた表題作「おとうさんがいっぱい」他、全5篇が収録された短編集です。どれも結末がはっきりしておらず、漠然とした不安を掻き立てる内容となっています。

 ただ、特筆すべき部分は、この本は児童書ということです。インターネット上のレビューでも「小学生時代に読んでトラウマだった」とありますが、確かにこれを小学校低学年あたりで読んだらトラウマになる気がします。普段通らない道を通ったがゆえに帰宅できなくなったり、家から出られなくなるだけか他人に認識すらされなくなったり、人が壁に入って消えてしまったり…なかなかに気味の悪い短編ばかりです。大人になった今ではなく、小学生のときに読みたかった気もします。個人的に、表紙すら奇妙に見えてくるのは気にしすぎでしょうか。

 

 

『神様ゲーム』

 『神様ゲーム』(麻耶雄嵩)

―あらすじ―
 神降市では連続猫殺し事件が起きていた。同級生の飼い猫も被害に遭い、主人公たちは息巻いていた。そんな中、転校生の鈴木太郎は「自分は神様だ」と言いだし、犯人を瞬時に言い当てる。さらに主人公の親友が殺される事件が起きるが…神様シリーズ第1作。

 

 

 インターネットの書評で知り、興味を持って読んでみました。相反しておりますが、適度に気持ち悪い不気味さを持った作品です。最後の事件の犯人は誰なのか、インターネットでは考察サイトも出てきており、敢えてもやもやするような終わり方となっています。250ページにも満たない短い作品であり、手軽にイヤミスを楽しみたい人にはオススメですね。